アルバイト採用からの、不思議な体験
苦楽園を散策中、おしゃれなパン屋さんの隣にアルバイト募集のポスターが目に止まりました。
地下1階で時給が47年前で、なんと700円です。
店の名前は砂時計。営業は17時からで、中の様子は伺い知れません。
スナックだと嫌だな、とその日の夜、客としてお店に行くと、そこはフランス料理のお店でした。
かっぷくのいい、鼻ひげをはやしたご主人がシェフで、目がぱっちりとした優しそうな奥様がカウンターとテーブル席の接客を担当。
私はカウンター席で食事をして、スナックでなくて良かったー、と安心してその翌日に電話をして面接、採用となりました。
仕事は奥様のお手伝いでテーブルにおつきのお客様に料理をお持ちしたり、皿を洗ったり、カウンター席のお客様に向かって、奥様と一緒に立っての接客でした。
休憩ではシェフのまかない料理を頂ける特典付きです。
このご夫婦のおかげで、私は知る人ぞ知る砂時計や、あしやのハイレベルな食感覚を味わい、それはとても希少な体験でした。
と言うのは、お二人は、私が来たことをとても喜んで下さり、定休日のお昼に食事に誘って下さいました。
そこがあしやだったと思うのですが、連れて来られたのはバリバリのフランス料理店でした。
顔なじみのシェフに注文をするオーナー。
もはやこのような場所にいるのが場違いではないかと思う程、私は席に着く前からすごくガチガチに緊張していました。
正直に、すごく緊張しています!と言って笑ってもらえば、少しはガチガチになっている自分の身体とバクバクの心臓もほぐれたのでしょうが、
口数も少なく、これが『ザ、フランス料理店』なのだとキョロキョロと目を動かし、見回していた記憶があります。
美食家がお昼から集まるこの高級レストランで何を頂いたか全く覚えていないのですが、覚えているのはパンを置く皿がなく、テーブルクロスに固めのパンを直に置いて食べるマナーと、熱々~と感じる料理がない、そこが日本料理とは違う、
これがフォークとナイフを使い、チーズとワインが好きなフランス人の特別メニューなんだと、わからないけどそう思いました。
もともと絵の具を買うためのアルバイトから、このような所にお誘いして頂けるなんて想像もしていなかったのですから、ラッキーなご縁としか言いようがなく、
授業が終わり、アルバイトに頑張るという忠誠心が芽生え、その中で一皿1000円代から2000円代の人気の料理を提供するシェフのお店に貢献する日々でした。
これ、約半世紀前の物価です。地元では、無理です。
所得の高さが、クオリティの高い店に反映していく、町や市の潤い方の違いってそういうことなのですね。
こうやって絵の具代欲しさから、アルバイトをはじめ発見しだした頃でした。