お母さんが私の横に座って。
その当時は今と違い、共働きというのが常識になく、
寿退社と言って結婚=専業主婦
になるのが何の不思議もない流れでした。
商売を継ぐ主人に追いていこうと決めた私でしたが。
現実的には銀行を辞め酒屋の手伝いをする場所は
田舎も田舎で、日本一長いアーケード街にそびえたつ
お城をイメージする建物の銀行から
いきなりタイムワープしたような過疎地の裏道にある酒屋でした。
このギャップに慣れなければというか、地に足がついていない。
つまり私は、主人の奥さんというより
この田舎店の奥さんで生き続けていくんだ。
これが自分に課せられた、大きな険しい道なんだと
思い知ることとなります。
そこへある日、事務をしていた私の横の椅子に
お母さんがちょこんと座り、
「こんなところに嫁いで、しまった!と思ってない?」
と笑顔で言うお母さんにぽん!と背中を叩かれた途端、
わーーーっと顔を机に伏せて泣いてしまいました。
お母さんにはお見通しだったのです。
背中を叩かれたのは、がまんせんでいいよの合図だったのですね。
確かに、泣いちゃいけない、泣くもんかとグッとこらえていました。
そんな私の背中をポンと叩いてくれたことで、
ふたが外れたように気持ちがほどけてしまいました。
お母さんのお陰で自覚もだんだんと変わり、
ここ過疎地と向き合っているのではない、
商売と向き合っていく私に変わっていったのでした。